現代語訳『三州奇談』その18 「怪異流行」(巻之四)


現代語訳『三州奇談』その18 「怪異流行」(巻之四)



堀麦水による『三州奇談』は、近世中期に成立した加越能の奇談集である。

今回はその18「怪異流行」(巻之四)の現代語訳である。









【訳】

元文元年(一七三六)中秋の良夜、午前一時頃、金沢・材木町の塩屋某は気心の知れた三人で連れ立って、月見がてら、紺屋坂下堂形前の空き地にやってきた。


そこで怪しいことが起こった。背の高い三人は裸になり、下帯だけになり、衣類や大小の刀を帯でくくって、どれも頭の上にのせて、手を組んでここは浅い、あそこは深いと、徒歩で渡れるところを探すようすで、草の生えたところを手探りで歩いていたのだ。



ここは流れが急で渡り難い、帰ろうという者があれば、また俺に任せろという者もいた。とうとう水は肩を越すぞという声がして、ついには藩老奥村氏の馬場の土手に登って、身体を拭いて衣類を着けて、馬場のなかを五、六往復もして、小将町の方へ行ったのである。



実に珍しくめったにない奇異な夜行であったことだ。

考えてみると、これは物好きなものが、野狐に命じてやらせたものだと思う。







また最近の話だが、彦三町に内藤善太夫という人があった。この屋敷の腰元でたよという者が、同じ仲間と枕を並べて寝て居たところ、見慣れない女が来て散々に恨み言を言って、そのあと髻をつかんで組み付いてきた。何とか目を覚ましてみると、髪は打ち乱れ、櫛も笄もあたりに散らばっていた。

夢とはいえどもいまもって覚えのない難儀だと仲間にも語り、お互い慰めあって、不可解なことがあったと人々にも話をした。





同じ仲間にたまという女がいて、内緒のことだけどといって話しだした。恥ずかしいこと限りないが、私がこの家の男何某と密通していることが、本妻のところへ漏れたのだろうか、いつのころからか毎晩私の夢に出てきてこのことを恨み、おまけに殴りかって来たのだが、それは二月ほども続き、一夜たりとも欠けることはなかった。



ところが昨夜ばかりは妻女が夢に来なかったので、快く寝入ったと思っていたのだが、そこに妻女があらわれ、さては私の霊が誤ってあなたのもとに来たのだろうと、涙ながらに話した。生きているものの怨霊が取り違えたのか、また不思議なことである。





思うに昔の本にでてくる幽霊は、必ず申し申しと呼ぶ。これはたしかにそれだと知っていても、昔は物事を丁寧にすることを優先したからだろう。今の人の軽率なのは人間界のことのみ思っていたが、さては幽冥にもこの風が移ってしまったのだろう。









以上が「怪異流行」(巻之四)の現代語訳である。


狐に化かされたような話があり、生霊も出て来た。いずれも日常生活の中から拾いあげた怪異である。


「昔の本にでてくる幽霊は、必ず申し申しと呼ぶ」以下は、作者の言葉であろう。人は昔は丁寧だったが、今は軽率になってしまった。これは昨今人間だけでなく、幽霊も同様になってしまったと作者がいっているところが、妙に現実的なことのように感じてしまう。

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