現代語訳『三州奇談』  その4「金茎の渓草」


現代語訳『三州奇談』   その4「金茎の渓草」



堀麦水の『三州奇談』は、近世中期に成立した加越能の奇談集である。これまでに3話の現代語訳を紹介したが、今回はその4「金茎の渓草」(巻之二)の現代語訳である。





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これは金沢岡島備中の家中・大平兵左衛門という者に聞いた話である。前田利長(加賀藩二代藩主)の頃の話だと思う。



小塚何某という新番の侍が、公用で何日も泊りがけで越中川上の村に出かけた時のことである。彼はある日、加賀越中の国境の医王山の山上に池があるというので、見ておこうと思ってしもべをつれて、この山に登った。



四月のはじめのころで、山桜が青葉の梢に吹き散って、山道は暖かで春らしい風情があった。しかし山の中腹にかかる頃、にわかに空がかき曇り、一面に霧がかかり一寸先もみえなくなり、とうとうそれ以上登ることはできなくなってしまった。仕方なく元の道を戻って下りようとしたが、道に迷ってしまった。仕方なく足に任せて行くと、谷川の流れに出たので、この水にしたがって山を下りて行った。



途中、その道に青い草が水に浸っており、大層香りがよかったので一つ採ってみると山葵(わさび)だった。いいものを見つけたと思い、下男にそれを数十本とらせた。そのあとも道は難所続きで、転んだり回り道をしたりして、やっとの思いで宿にたどり着いた。そのためたくさん採った山葵は持ち帰るどころではなってしまい、道々落してしてしまい、最後に残ったのはやっと三本だけであった。



宿での夕飯のとき、さっそくこの山葵をおろしたが、たいそう堅くて金属のようだった。不思議に思った下男が主人に見せると、それは重く光っており、よくみると山葵の茎も葉も、驚くことにすべて黄金であることがわかった。



その翌日小塚は村中の屈強な者を雇い、あの山葵があった沢に行って、もっともっと黄金を手にしようと思った。ところが、ここかなと思うところはことごとく行ってみたが、川には似たような場所はあったが、あの山葵があるところにたどり着くことはできなかった。



このことはそのままにしておくことはできず、上司に連絡した。家老からこれを聞いた藩主は十村にあたり一帯をくまなく探すように命じになったが、ついにその場所はわからなかった。

この黄金の山葵は藩主に献上されて、現在も城中にあると聞いている。






「金茎の渓草」は、桃源郷をほうふつさせる伝承である。

この話は泉鏡花も小説のモチーフとしている。

金沢は地名にあるように、金とかかわりのある伝承が残っている。加賀の金山開発の話は石川県史にいくつかがみえる。







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