ブログ版 『三州奇談』を読む   「中代の若狐」-3



.「中代の若狐」 狐飛脚と狐火

 狐の二面性  
 
 狐は全国に広く棲息しており、平地から千八百メートル位の山地にみられる。人家付近にも多く棲み、夜行性で、行動範囲五キロ前後を徘徊し食物をあさる。
 ウサギやノネズミを獲り、農民にとっては有益な獣である(『世界大百科事典』平凡社)。

 中代狐は、ホンドキツネである。
 狐は狸とともに人を化かすといわれ、多くの民俗伝承が残されており、昔話の主役となっている。これは人と接触する機会が多かったからである。

 狐は狡猾、人をたぶらかす性悪な獣とされる反面、神の使い、あるいは神そのものとして稲荷社に祀られる二面性をもっている。
 これは時代の経過とともに人間との関係のなかで、そのイメージが変化してきたからである。

 狐飛脚 

「中代の若狐」は、登場人物が家僕三人と飛脚に化けた狐二匹だけで、うかうかと怪しい雰囲気の中で話は展開する。家僕は飛脚とみえたのは狐だと気づくが、その手がかりとなったのは、狐の尾と飛脚姿と飛脚提灯である。

 まず飛脚である。家僕は飛脚のなりをした狐を見破ったが、本物の飛脚の姿は見慣れていたようである。大聖寺藩には飛脚がいた。大聖寺藩では、大聖寺から江戸 、金沢、京都、越中境への路線があり、さらに江戸・京都間、江戸・坂本間の六つに定期的に飛脚をだしていた。

 飛脚は、当初毎月三度であったので「三度」と呼ばれており、毎月二の日に三回出していたが、七の日に三回のこともあった。藩主の在府・在邑により回数が変更した時期もあった(『大聖寺藩史』)。

 くわえて加賀藩の飛脚も大聖寺を通行していた。大聖寺城下に住む家僕は、街道をゆく飛脚の姿を頻繁にみる機会があったのである 。


 もともと狐はその姿が飛脚に似ており、さらに人間を超える能力、ここでは速く走る能力をもっている動物とみなされていたからである。


『三州奇談』に登場する狐は加賀を本拠地として、江戸・京都・福井・滑川・越後・秩父・鴻巣・浅草などの各地を往来している。

 その行動範囲の広さが目立つが、これは当時人々が活動する舞台と重なっている。柳田は「全体江戸の狐狸は、よく昔から北国筋へ往復している(「熊谷弥惣左衛門の話」)」といっているが、『三州奇談』を読む限りでは「北国筋の狐が江戸へ往復している」のである。

 中代狐は、いわゆる狐飛脚のように「スーパー狐」ではなく、まったく反対のダメ狐として描かれている。しかし最後には一転して、人間もこの狐のようにきっぱりしなければならないと、人間の手本とされるにいたるのである。

つづく







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