人間と動物―中 約束を守る蜈蚣(ムカデ)


人間と動物―中 約束を守る蜈蚣(ムカデ)


『三州奇談』のなかの「異類守信」は、人間の言葉や心情を理解できるかのような三つの生きものと人間との交流を語る寓話である。三話中、前回は約束を守る狐の話だったが、今日はムカデである。



  神の使い・蜈蚣と人間

 二つ目は、彦三町の大野仁左衛門と蜈蚣の話である。

 時は宝暦巳とあるので宝暦一一年(1761)、舞台は金沢城下彦三町である。捕えられた蜈蚣(ムカデ)が夢にあらわれ、多聞天の使いの途中で用事をしなければならないので放してください、あとで必ず戻るからと約束した。翌日蜈蚣はその言葉通り約束を守り戻って来たという話である。

 蜈蚣はこの世では大野家の主人の命に従ったのだが、神仏の世界では多聞天に従っていた。蜈蚣は、現実の世界の人間と空想の世界の天王の双方に服従していたことになるが、人間の世界でも約束を守ったのである。
 
 蜈蚣は、噛まれると激しい痛みがあることや、その姿かたちがグロテスクなことから、人に嫌がられる虫のひとつである。

 昔は怪異な動物とみなされ、大百足など奇談が多い。反面、庶民の間では毘沙門天の使い(麦水は多聞天の眷属とするが、両者は同じ仏)と信じられていた(『和漢三才図会』)。
 さらに『御伽草紙』や『太平記』の、俵藤太秀郷・蜈蚣退治が知られており、さまざまな言い伝えがある。

 
 神の使者としての蜈蚣をみてみると、蜈蚣は毘沙門天の使者とされており、京都の鞍馬地方では、蜈蚣をけっして殺さなかったという。

 毘沙門天の信仰で名高い鞍馬寺では昔は縁起物にし、正月の初寅の縁日には境内で生きた蜈蚣が売られ、「おあし」が多い縁起物として商人が買ってゆく風習があった(『改訂京都民俗志』)。
 彦三の蜈蚣が助かったのは、このような風習が背景にあったことも、いくらか影響しているのかも知れない。
 

 能登の祭祀に、輪島市久手川町の「むかで祭」でがある。春祭りには百足の子と呼ぶ特殊神饌を献進する。それは粳米団子に小豆餡をつけた小粒のもので、百足の卵に見立てたものである。
 ほかに巨大な握り飯を用意し、餓鬼様と唱え、拝殿の四方に転がすものである。これも毘沙門天信仰とのつながりを示すものである。
 

 また『今昔物語集』巻第二十六に「加賀国諍蛇蜈島行人助蛇住島語第九」がある。無人島(猫の島)に漂流した加賀国の下衆が、島の大蛇に依頼され、宿敵の蜈蚣を倒し、その後家族ともども島に移住し、幸せに暮らすという話である。これは敵役としての蜈蚣伝承である。


次回はムカデの続きである。



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